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東京地方裁判所 平成11年(ワ)3101号 判決 2000年6月30日

原告

社団法人日本音楽著作権協会

右代表者理事

【A】

右訴訟代理人弁護士

山川博光

中川康生

原告補助参加人

【B】

右訴訟代理人弁護士

露木琢磨

被告

日本映像株式会社

右代表者代表取締役

【C】

右訴訟代理人弁護士

那須克己

本間伸也

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用については、補助参加人に生じた費用は補助参加人の負担とし、その余の費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、金二八四三万七四五七円及びこれに対する平成一一年二月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、「原告補助参加人【B】(以下「補助参加人」という。)は、同人が作曲した別紙楽曲目録記載の楽曲(以下「本件楽曲」という。)の著作権(以下「本件著作権」という。)を、原告に対して信託的に譲渡しており、原告は本件楽曲の著作権者であるところ、被告は、原告に無断で、本件楽曲を複製している。」と主張して、被告に対し、著作権侵害による損害賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実等(括弧内で証拠を摘示しない事実は当事者間に争いがない。)

1  原告は、内外国の音楽著作物につき、各著作権者より著作権ないしその支分権の移転を受けてこれを管理し、日本国内における放送事業者をはじめレコード、映画、出版等各種の分野における各種音楽使用者に対してその使用を許諾し、右著作権等の許諾の対価として、著作物使用料規程に定める著作物使用料をこれらの使用者から徴収し、これを内外の権利者に分配することを主たる業としている。

被告は、映画、テレビ番組、ビデオなどのプロデュースを行っている(乙一、被告代表者【C】、弁論の全趣旨)。

2  原告と補助参加人は、補助参加人が本件楽曲を作曲する前である平成三年一月一日、補助参加人が有するすべての著作権及び将来取得するすべての著作権を、信託財産として原告に移転し、原告は、補助参加人のためにその著作権を管理することを内容とする契約(以下「本件信託契約」という。)を締結した(甲一ないし四、弁論の全趣旨)。

3  補助参加人は、本件楽曲を作曲した。

4  被告は、本件楽曲を背景音楽とする別紙ビデオ目録記載のビデオ(以下、各ビデオをまとめて「本件ビデオ」といい、それぞれのビデオは、別紙ビデオ目録の題名欄記載の題名によって特定する。)を制作し、これらを複製した。

5  原告は、補助参加人から原告への、本件信託契約に基づく、本件著作権の移転につき、著作権登録原簿への登録をしていない(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  被告は、原告に対して、損害賠償責任を負うかどうか

(被告の主張)

被告は、補助参加人に対し、自己が制作する本件ビデオの背景音楽として使用する目的で、本件楽曲の作曲を依頼し、本件ビデオの背景音楽として本件楽曲を複製することについて、補助参加人から許諾を得た。

被告は、補助参加人に対し、右複製許諾を含む本件楽曲提供の対価として別紙ビデオ目録の支払金額欄記載の金員(以下「本件支払金」という。)を支払った。

したがって、被告は、原告の本件著作権の著作権登録原簿への登録の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者であるところ、補助参加人から原告への本件著作権の移転につき著作権登録原簿への登録がされていないから、原告は、被告に対して、著作権者であることを主張できない。

(原告の主張)

ビデオの制作者が音楽の複製使用を希望する場合は、原告に対し、著作物の使用許諾申請手続をし、その申請に対して原告が許諾するのであり、作曲者自身には複製を許諾する権限はないから、作曲者である補助参加人が、被告に対して、本件楽曲の複製許諾をすることはあり得ない。

補助参加人は、被告との間で、具体的に複製許諾料の話をしないまま、被告に対し、本件楽曲の録音テープを引き渡しているが、補助参加人が、本件ビデオ以外の背景音楽を作曲した際には、作曲後、原告に作品届けを提出しておけば、原告を通じてビデオの複製本数に応じた複製許諾料が支払われていたため、本件ビデオについても同様に考えて、右録音テープを引き渡したものである。

被告から支払われた金員は、録音作業料等の音楽制作費であって、複製許諾料ではない。著作権使用料が複製本数にかかわらず一定金額であるのは不合理である。

以上のとおり、補助参加人は被告に対して、本件楽曲の複製を許諾していないから、被告による本件ビデオの複製行為は不法行為であり、不法行為者である被告は、原告の著作権登録原簿への登録の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者とはいえない。

よって、被告は、原告に対して、不法行為による損害賠償責任を負う。

2  原告の損害

(原告の主張)

原告の著作物使用料規程によると、本件楽曲の複製許諾料は別紙使用料算定内訳記載のとおり、合計金二八四三万七四五七円である。

右は本件楽曲の複製による原告の逸失利益であって、原告は右同額の損害を被った。

(被告の主張)

原告の主張を争う。

第三争点に対する判断

一  証拠(乙一ないし四、乙五の一、二、乙六ないし八、丙一、丙三の一ないし八、証人【B】、証人【D】、証人【E】、被告代表者【C】)によると、次の各事実が認められる。

1  補助参加人は、【F】(以下「【F】」という。)と共同で株式会社オフィスばん(以下「オフィスばん」という。)を経営し、テレビドラマ、オリジナルビデオ、映画等の背景音楽等のプロデューサーとして活動し、右活動に必要な範囲で作曲も行っている。

【D】 (以下「【D】」という。)は、タレントのマネジメントを主たる業とする有限会社一期舎の代表であり、平成六年ころ、オフィスばんの事務所の一部を賃借していた。また、被告代表者【C】(以下「【C】」という。)は、被告を設立する以前において、松竹株式会社でプロデューサーをしており、【D】は、そのころ、【C】と知り合った。

2  【D】は、同じくタレントのマネジメントを行っている【F】から、補助参加人が作曲家であり、作曲の仕事があったら紹介してもらいたい旨言われていたので、【D】は、【C】に対し、補助参加人を作曲家として使うよう申し入れていた。

【D】 が、【C】を、大阪朝日放送東京支社のプロデューサーに紹介したことから、被告が大阪朝日放送の土曜ワイド劇場「湯煙の密室」というテレビドラマ(以下「本件テレビドラマ」という。)の制作を担当することになった。そこで、【C】は、【D】の右申入れに基づき、本件テレビドラマの背景音楽の作曲を補助参加人に依頼することにした。

【D】 が、【F】を通じて、補助参加人に対し、本件テレビドラマの背景音楽を七〇万円で担当するつもりがあるかどうか尋ねたところ、補助参加人はこれを口頭で承諾し、背景音楽を作曲した。

3  【C】が、【D】に対し、平成六年三月ころ、被告が制作するビデオ「本気2」の背景音楽の作曲を、五〇万円で補助参加人に担当させてもよいと言ったため、【D】が、【F】を通じて、補助参加人に対し、その旨を伝えたところ、補助参加人はこれを口頭で承諾した。

「本気2」は、同年五月一七日から同月三一日にかけて撮影され、その後補助参加人が背景音楽を作曲し、その録音テープの引渡しを受けた被告において編集が行われた。

被告は、同年九月七日に、補助参加人に対して、右五〇万円に消費税相当額を加算した五一万五〇〇〇円を支払った。

4(一)  本件ビデオのうち、「カメレオン」を除く各ビデオは、「本気2」と一連のものとして企画制作され、別紙ビデオ目録のクランクIN欄記載の日から同クランクUP欄記載の日にかけて撮影された。

(二)  本件ビデオのうち、「仁義3」、「湘南純愛組!」、「本気3」、「あばよ白書」、「仁義4」、「湘南純愛組!2」及び「仁義5」については、【C】が、【D】又は被告の関連会社である日映プロジェクト株式会社の【E】(以下「【E】」という。)を通じて、補助参加人に対し、背景音楽の作曲を依頼し、補助参加人はこれらをそれぞれ口頭で承諾した上、右各ビデオの背景音楽を作曲して、被告に録音テープを引き渡し、その録音テープの引渡しを受けた被告において編集が行われた。

被告は、別紙ビデオ目録の支払日欄記載の日に、補助参加人に対して、それぞれ本件支払金を支払った。

本件ビデオのうち、「仁義4」及び「仁義5」に関しては、制作費を節約するため、右二本のビデオをまとめて撮影し、編集作業を行ったために、本件支払金のうち、右各一本当たりの補助参加人に対する支払金額は二五万七五〇〇円となっているところ、右支払金額については、事前に、【C】が、【E】を通じて、補助参加人に対して伝え、補助参加人はこれを口頭で承諾した上、右各ビデオの背景音楽を作曲した。

(三)  本件ビデオのうち、「本気4」、「仁義6」、「湘南純愛組!3」及び「仁義7」の各ビデオについては、それぞれのシリーズにおいて以前補助参加人が作曲した背景音楽を使用して制作された。そのため、被告は、右各一本当たりの補助参加人に対する支払金額を一〇万三〇〇〇円とすることとし、事前に、【C】が、【E】を通じて、補助参加人に対して、右支払金額を伝え、補助参加人はこれを口頭で承諾した。

被告は、別紙ビデオ目録の支払日欄記載の日に、補助参加人に対して、それぞれ本件支払金を支払った。

5  本件ビデオのうち、「カメレオン」は、それ以外のビデオとは異なるものとして企画制作されたものであり、【C】が、【E】を通じて、補助参加人に対し、五〇万円で新たに背景音楽の作曲を依頼したところ、補助参加人はこれを口頭で承諾した。

「カメレオン」は、平成七年一〇月二六日から同年一一月一〇日にかけて撮影され、その後補助参加人が背景音楽を作曲し、その録音テープの引渡しを受けた被告において編集が行われた。

被告は、平成八年三月二八日に、補助参加人に対して、右五〇万円に消費税相当額を加算した五一万五〇〇〇円を支払った。

6  【C】は、右5の「カメレオン」を最後に、補助参加人に対して、背景音楽の作曲を依頼せず、本件ビデオのうち「仁義7」及び「本気5」のそれぞれ続編である「仁義8」及び「本気6」を、別の作曲家の作曲にかかる背景音楽を使用して制作し、それぞれ平成八年六月二一日及び同年八月二三日にビデオとして発売した。

7  本件ビデオは、いずれも劇場公開を予定しておらず、複製を行った上、レンタルビデオショップに対して販売する目的で制作されたビデオであり、劇場公開用のビデオに比べて制作費は少ない。

8  補助参加人は、右1ないし5のいずれの過程においても、本件支払金のほかに、本件ビデオの複製本数に応じた複製許諾料の支払を求める意思を表示しておらず、【C】、【D】及び【E】のいずれも、補助参加人に対し、右複製許諾料の支払を行う旨を表示していなかった。

また、補助参加人は、被告に対して、右1ないし5のいずれの過程においても、自己の著作権が本件信託契約に基づいて原告に移転していることを何ら告げていない。

9  補助参加人は、被告に対し、平成八年九月二六日に至って、本件楽曲の複製許諾料の支払を請求した。補助参加人は、それまで、被告に対して、このような複製許諾料について何ら確認したことはなかった。

補助参加人は、被告に対し、平成一〇年二月五日に、本件楽曲の複製許諾料の支払を求める訴えを提起したが、本件信託契約が存することから、右訴えを取下げ、原告が本訴を提起するに至った。

二1  著作権法七七条一号は、著作権の移転又は処分の制限は、登録しなければ、第三者に対抗することができないことを定めているから、著作権の移転は、登録をしなければ、第三者に対抗することができない。

2  前記第二(事案の概要)一(争いのない事実等)5のとおり、本件著作権については、著作権登録原簿への登録がされていないところ、本件信託契約による本件著作権の原告への移転は、右登録がなければ、第三者に対抗することができず、右第三者とは、登録の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者をいうと解するのが相当である。

三1  前記一1ないし9によると、本件楽曲は、本件ビデオの背景音楽として使用するために、被告が補助参加人に依頼したものであること、右依頼の前後において、補助参加人は、本件支払金のほかに、本件ビデオの複製本数に応じた複製許諾料の支払を求める意思を表示しておらず、【C】、【D】及び【E】のいずれも、補助参加人に対し、右複製許諾料の支払を行う旨を表示していなかった上、補助参加人は、被告に対して、自己の著作権が本件信託契約に基づいて原告に移転していることを何ら告げていないこと、補助参加人は、他人が作曲した背景音楽を使用したビデオが発売された後になって、初めて、被告に対して、本件楽曲の複製許諾料の請求を行っていること、以上の事実が認められ、これらの事実に前記一1ないし9で認定したその余の事実を総合すると、補助参加人と被告との間において、本件支払金は、本件ビデオの複製許諾料を含むものとして合意されたと認めるのが相当である。

2  丙二(補助参加人の陳述書)及び証人【B】の証言中には、【C】から、補助参加人に対し、【D】を通じて、「本気2」の背景音楽の作曲が依頼された際、【D】から、五〇万円とは別に、「【B】さんには、後でまた入るから」と言われた旨の部分があるが、この部分は、これに反する証人【D】の証言に照らすと、直ちに信用することができない。

また、証人【B】は、(一)補助参加人が、「本気2」の複製許諾料が支払われないことが分かったのは、平成七年一二月になってからである、(二)平成六年に発売された同ビデオについては、通常は平成七年六月に原告から補助参加人に使用料が分配されるが、被告の手形サイトが一〇〇日であった場合は、原告への入金、補助参加人への分配とも半年ずつずれ込むから、平成七年一二月まで待っていたと証言する。しかし、補助参加人が、被告の手形サイトを知っていたことを認めるに足りる証拠はないから、補助参加人が、当初から複製本数に応じた複製許諾料を受領する意思を有していたにもかかわらず、通常使用料が分配される平成七年六月の時点で、被告に対して何ら確認することなく、本件ビデオの仕事を継続していたことは不自然であるといわなければならない。また、仮に、証人【B】の右証言を信用するとしても、補助参加人が、被告に対し、本件楽曲の複製許諾料の支払を請求したのは、平成八年九月二六日に至ってからであって、それより前には、被告に複製許諾料について何ら確認していないから、補助参加人が、当初から複製本数に応じた複製許諾料を受領する意思を有していたとすれば、不自然であるというほかない。

さらに、前記一7のとおり、本件ビデオは、レンタルビデオショップに対して販売するための、比較的制作費の少ないビデオであるから、一定数量以上の販売を達成することによって利益が計上できるように、制作費用を一定額に設定することは、一つの合理的な方法であり、著作権使用料が複製本数にかかわらず一定金額であるからといって、直ちに不合理であるということはできない。

3  証拠(甲一一)によると、原告に対して、補助参加人が作曲したビデオの背景音楽について、原告に対して複製本数に応じた複製許諾料が支払われている例のあることが認められるものの、証拠(甲一一)によると、これらは、対象となるビデオやビデオ製作会社が本件とは異なることが認められるから、右2の認定を覆すに足りるものではない。

4  そうすると、被告は、本件楽曲の作曲者である補助参加人から、本件楽曲を本件ビデオの背景音楽として複製して使用することについて許諾を受けた者であるから、本件著作権の移転に関する、原告の著作権登録原簿への登録の欠缺を主張するにつき、正当な利益を有する第三者であるというべきである。

四  結論

以上の次第であるから、補助参加人から原告への本件信託契約に基づく本件著作権の移転につき、著作権登録原簿への登録をしていない原告は、右登録の欠缺を主張するにつき正当な利益を有する第三者である被告に対して、本件著作権に基づく本訴請求を行うことは許されない。

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之 裁判官 杜下弘記)

<以下省略>

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